「借金の滞納で度重なる督促を受けている…」
「債務整理をする前にまずは取り立てを止めて欲しい」
そんな状態から脱することができる、有効な方法があります。それが「受任通知」です。
受任通知は弁護士・認定司法書士(法務大臣の認定を受けた司法書士※以下、司法書士)などの専門家から債権者に送る通知書で、法律にもとづいて督促を止める効果があります。
数か月かかる債務整理の手続きが終わるまで督促を受け続けるのは、甚大なストレスになるでしょう。弁護士や司法書士に債務整理を依頼することにより督促が止められる受任通知は有効な手段の一つです。
この記事では、債務整理の手続きでも重要なポイント「受任通知」について詳しくご説明します。
受任通知とは?
受任通知は「債務者(お金を借りている人)から依頼された代理人が債務整理を行う」という旨を債権者(貸金業者など)に宣言・通告する書類です。
貸金業者などの債権者に受任通知(介入通知)を送れるのは、弁護士や司法書士などの専門家だけです。債務者がそれらの専門家に債務整理を依頼すると、専門家から債権者に受任通知が送られます。
受任通知のメリット
受任通知を送ると、「滞納による債権者からの督促・取り立てが止まる」以下のようなメリットがあります。
「弁護士や司法書士から受任通知を受け取ると貸金業者は正当な理由がない限り取り立てができない」というのは貸金業法の第21条1項で定められています。
受任通知以降に取り立てを行うのは違法であり刑罰の対象になるため、取り立ては止まるのです。
※ただし受任通知の送付によって停止されるのは、直接の取り立て行為であり、裁判手続きによる貸金の回収まで禁止されるものではありません。もっとも一定の業者を除き通常は一定期間は提訴を停止してくれます。
また債務整理の手続きが終わるまでの間、業者によっては一定期間返済を待ってもらえる場合があるのも大きなポイント。債務整理の中でも自己破産や個人再生であれば、6ヶ月以上はかかります。
【参考:債務整理にかかる期間の目安】 |
任意整理 |
約3~6ヶ月 |
個人再生 |
約半年~1年 |
自己破産 |
約半年~1年 |
その間の返済がストップできれば、生活の立て直しや、債務整理後の借金返済や弁護士などに支払う債務整理費用に充てることも可能となります。
したがって、毎日のように取り立てに遭っている方にとっては、受任通知は一時的とはいえ、その効果はあまりにも大きいといっていいでしょう。
弁護士や司法書士も「いち早く督促を止めて欲しい」という希望は理解しています。そのため、依頼を受けたその日に発送する、着手金は後払いにするといった対応をとっている事務所もあります。
債権者からの取り立てで精神的に追い詰められているのであれば、弁護士や司法書士に相談してみるのも解決方法の一つです。
「受任通知」と「委任状」の違い
受任通知と委任状の違いは、交付者です。
委任状は、自分以外の他人に行為をしてもらうことを記した文書で、本人が署名押印し資格者等に交付するものです。
そして受任通知は本人から依頼を受けた資格者(弁護士や司法書士など)が作成し、貸金業者等に対して送付します。貸金業法には受任通知を受け取った後に業者が取り立て行為等を行い、貸金業法に対して違反した場合の罰則や行政処分についても定められています。
つまり、受任通知は貸金業者やクレジットカード会社に対して強い効力を持つ法的書類なのです。
したがって作成できるのは資格のある弁護士や司法書士です。資格のない人が書いたものでは効果はありません。
また、弁護士や司法書士が受任通知を発送するのは「債務整理手続きに関する委任契約を結んだ」場合です。
なぜなら、冒頭でもお話ししたとおり、受任通知は「これから私(弁護士や司法書士)が債務者の代わりに債務整理手続きをします」という書面だからです。
まだ弁護士・司法書士に受任されていない状態であれば、弁護士や司法書士も発送できませんので、あらかじめ理解しておきましょう。
受任通知と法律の関係
「貸金業法第21条第1項9号」では、受任通知を受け取った貸金業者が正当な理由もなく債務者本人に督促を行い、代理人の業務を妨害することを禁じています。
それを守らない貸金業者には、貸金業法47条の3の3号にもとづいて2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(両方の場合もあり)。また、業務停止や貸金業登録取り消しといった行政処分を受ける可能性もあります。
さらに、「債権管理回収業に関する特別措置法第18号第8項」では、債権回収業者が同様の行いをすることを禁じています。
こちらも違反した債権回収会社は許可取り消しなどの行政処分を受けることに。受任通知を受けた貸金業者は法律で債務者への督促が禁じられるため、債務整理依頼後は裁判手続きによる貸金の回収を除き、督促が止まります。
受任通知で督促が止まるまでの流れ
弁護士や司法書士が受任通知を発送し、督促が止まるまでの流れは以下のとおりです。
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step1
債務者(借金をしている人)が弁護士・司法書士などの専門家に債務整理を依頼すると、その時点で専門家が代理人として債務整理の手続きを行います。
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step2
代理人となる専門家は、依頼を受けたら速やかに書面による受任通知を債権者に送り、その後のやり取りをすべて代理人が行うことを宣言します。その内容は以下のようになっています。
・債務者の住所・氏名
・弁護士・司法書士が債務整理を受任したこと
・代理人となる弁護士・司法書士の氏名・住所・連絡先
・債務者への連絡・取り立て行為の禁止
・取引履歴などの開示を求めること
・債務の承認(時効の中断)には該当しないこと
-
step3
代理人から上のような受任通知が届いた債権者は、その時点から債務者本人に訪問、郵便、FAX、などでの督促が正当な理由がある場合を除き、できなくなります。ただし裁判手続きによる回収までは禁止されません。
受任通知を送る前に!気をつけておくべきこと
弁護士や司法書士に債務整理を依頼すると受任通知が債権者に送付され、そこから借金の督促が止まります。しかし、「受任通知を送ったから安心」というわけではありません。
受任通知はいわば“応急処置”。借金の督促や返済が止まるのはあくまで一時的な処置でしかありません。
メリットもあればデメリットもあるのが債務整理です。受任通知を送る前に、以下の点にはあらためて注意しておきましょう。
ブラックリスト(信用情報機関の事故情報)に登録される
受任通知が送られると、いわゆる「ブラックリスト(信用情報機関の事故情報)」に登録されます。登録期間は任意整理で完済から5年、個人再生や自己破産の場合は10年です。
登録されるとクレジットカードやローンが使えなくなるほか、他者の借金の保証人にもなれません。場合によっては、賃貸契約における保証会社の審査に通らないができない可能性もあります。
とりわけ、利用中のクレジットカードには注意が必要です。
定期的にクレジットカード決済を利用した支払いがある場合、停止によって引き落としができなくなります。その前に必ず支払い方法の変更を行いましょう。
銀行口座凍結の可能性がある
銀行や系列会社からお金を借りている場合、受任通知送付後は債務整理の対象となる銀行口座が凍結される可能性があります。
したがって、弁護士・司法書士に依頼する前に銀行預金は引き出し、当面の生活費などを確保しておきましょう。
また、その銀行口座を給与振込口座等の入金口座として使っている場合、口座に振り込まれた給与が全額借金返済に充てられてしまいます。受任通知を送る前に、必ず給与振込口座を別の銀行に移しておく必要があります。
保証人が借金の返済を求められる
個人再生は債務を分割して返済する計画を立て、裁判所に認められれば、その計画に従って返済をすることによって、残りの債務の一部が免除される手続きです。自己破産は税金や罰金、養育費等一定の債務を除きすべての債務が免除される手続きです。
その代わりに保証人や連帯保証人が借金の一括返済を請求されてしまいます。
また任意整理では止むを得ない事情があるのであれば、保証人の付いている業者は手続きしないといった柔軟な対応ができる場合もあります。
ただし一方は支払いを止め、もう一方は返済するといった行為は後に法的整理に移行した場合に「偏波弁済」とされる可能性があることに注意しなければなりません。
あくまで債務整理をすることが前提
受任通知を送る場合は、依頼者が債務整理を通して借金を返す意思を明確に持っていることが前提となります。
「ただ督促を止めるため」の目的だと、受任通知のの意味がありません。よって、債権者に受任通知を送る場合は、弁護士や司法書士に正式に債務整理の手続きを依頼する必要があります。
受任通知を送るためには弁護士・司法書士に依頼
債権者に受任通知を送って借金の督促を止めたい方は、弁護士や司法書士に正式に依頼して債務整理を行う必要があります。
その際に専門家に払う着手金や合計費用は、以下のとおりです。目安として把握しておきましょう。
債務整理名 |
着手金 |
合計の弁護士費用(着手金含む) |
任意整理 |
約3~5万円 |
約3~5万円+成功報酬10% |
個人再生 |
約20万円~ |
約30万円~ ※ほか裁判所費用(20万円~) |
自己破産 |
約20~30万円 |
約30万円~ ※ほか裁判所費用(3万円~) |
借金が返せないほどお金に困っている方にとって、着手金の用意は容易ではありません。弁護士や司法書士もそのことは十分にわかっているはずです。
したがって法律事務所によっては、分割払いや後払いにも対応しています。
費用については担当の弁護士や司法書士とよく相談し、無理なく債務整理の費用を支払えるかどうかを検討してみましょう。
多くの弁護士・司法書士事務所では個々の借金状況に応じた債務整理についてのアドバイスはもちろん、債務整理費用の支払い方法についても無料で相談に応じてくれます。
借金返済に困っている方は、弁護士・司法書士事務所に相談してみるのも選択肢の一つです。